昭和も後半の1980年当時、
僕の手の中に、2枚のチケットが握り締められていた。
これこそ、山形県民会館で公開収録される、『8時だョ!全員集合』 のチケットであった。
あの、夢にまで見たドリフの・・・・・・
どんな経緯で入手したか、記憶が定かではない。
テレビ局か、商店街の懸賞に応募して、当選したのかもしれない。
それにしても、全員集合を放映していない山形で、
なぜ収録が行われたのか・・・・・・謎だ。 (;´Д `) ?
ネットで検索しても、山形で収録が行われた痕跡は、どこを探しても無いし・・・・・・
もしかしたら、あの夜の記憶は、儚げな幻だったんじゃないだろうかとさえ思えてしまう。
まあ、それはともかく、
2枚のチケットを手に、僕は同行者を考えていた。
一緒に行って楽しい、そして・・・・・・
僕は同じ放送委員のK君に目を付けた。
ある日の休み時間、僕はK君を人気の無い所に呼び出し、お誘いをかけてみた。
『ねえ、〇日の土曜日の夜、空いている?』
『え、なんで? 時間が遅くない?』
当時の山形の夜8時、コンビニなんてまだ無いし、
飲み屋以外はほとんど閉店してしまうから、
市の中心部とは云え真っ暗だったのだ。
僕はK君に顔を近づけ、小声で囁いた。
『実は、全員集合のチケットを持っているんだ。一緒に行かない?』
『え!』
K君の顔が、一瞬にして上気した。 (*゚∀゚)=3
『行くよ! 行くよ!』
『じゃあ、一つだけお願いがあるんだ。ドリフのサインをもらう、
色紙を買ってきてくれない? メンバー全員に一人一枚書いてもらうから5枚、
あとは寄せ書き用に1枚、合計6枚』
これは、タダで色紙をせしめようとする、
僕のこずるい作戦だった。 ( ´∀`) イヒヒ .
K君は、少々悩みつつOKを出した。そりゃそうだ、この機会を逃せば、
もう絶対にドリフの収録なんて見れないだろうし。
それから収録日までは、あっという間だった。
僕とK君は、秘密を共有する仲間として、時々顔を見合わせてニヤッと笑った。
ところで、ここから先、収録の様子はかなりの記憶補正が入っている。
夢のような一夜だったが、さすがに数十年前の子供の記憶なので、
ご容赦いただきたい。 <(_ _)>
さて、待ちに待った収録当日の土曜日。
待ち合わせをしていた僕とK君は、そろって山形県民会館に歩を進めた。
もちろんK君の手には、まっさらな色紙が入った紙袋が握られていた。
ちなみに、普段から七日町は僕らの庭だったし、
鍛冶町からだと子供の足でもすぐだったため、
子供だけの収録見学でも親も文句を言わなかった。
会場に着くと、すでに収録の行列ができていた。
親子連れや子供同士。みんな一様に笑顔だった。
開場して、中へ入る。
席は、中央の左寄り。悪くない。 (*゚д゚)) ホゥホゥ
今か今かと待ちわびながら、K君と他愛無い話をしていると、
突如、舞台に長さんが現れた。
長さんとは、もちろんドリフリーダーのいかりや長介である。
『もう始まったの?』
すわ僕らは色めきたった。
『こんばんは、収録までもう少しです。開演前に、少し練習させてください』
夢のようである。あのドリフ大爆笑でしか見れない長さんが、僕らの目の前で喋っているのだ。
『私が八時だよ、と云ったら、みなさん大きな声で、全員集合と叫んでください。
よろしいですね、それでは八時だよ』
『ぜんいん、しゅうごう・・・・・・』
控えめに声が上がる。
『う~ん、声がぜんぜん小さいですね、それではもう一度、八時だよ・・・・・・』
何度か練習をした後、長さんのOKが出た。
今か今かと開演を待っていると、
後ろの客席が急にザワツき始めた。
え? と思って振り返ると、そこには後ろのドアから入ってきた、4人のメンバーが立っていた。
そう、4人のメンバーとは、加藤茶、仲本工事、高木ブー、そして志村けんだ。
はじまる!
会場は一気にヒートアップした。 (*゚∀゚)=3
そして、会場の緞帳がスルスルと上がる。
『は~い、それでは皆さん、始めますよ』
舞台の下で、係りの人が叫ぶ。
『5・4・3・2・1・・・・・・』
長さんが舞台で叫ぶ。
『八時だよ!』
ぼくらは客席で、拳を突き上げる。
『全員、集合!』
ついにドリフが始まったのだ。一瞬でも見逃すまいと、僕らは舞台に目を凝らした。
ドリフが舞台で歌う。
エンヤー コーラヤット、ドッコイジャンジャン コーラヤ・・・・・・ハァー
僕らは歌詞を知らないので、手拍子だけだ。
『よろしく~』
長さんが〆ると、舞台下でスタッフが叫ぶ。
『CM入りました~』
そして舞台奥の幕が上がり、コントのセットが現れる。
テレビを見ている方にはお馴染み、僕らにとっては始めての舞台コントだ。
CMの時間が過ぎると、スポットライトに照らされて、長さんが現れる。
山形の収録は、確か忍者コントかスパイコントだったはずである。
申し訳ないが、どちらだったのか忘れてしまった。
内容は、復刻版で見れるのと、同じような感じかと・・・・・・
で、やっぱりあった。
志村けんが舞台で独りになると、
後ろのドアからソーっと忍者だかスパイが現れるシーンが。
『うしろー、うしろー』 (」゚O゚)」≪
チビたちは、志村に知らせようと、必死に声を上げる。
さすがに小学生の僕は知っていた。
コントなんだから、僕たちが声を上げても、志村は気づかないフリをしなきゃいけない。
そうしないと、コントにならないから。
でも志村と敵の距離は、刻一刻と狭まる。
もうすぐ志村が捕まっちゃう。
分かっている・・・・・・
分かっているんだけど・・・・・・
いつしか僕は、大声で叫んでいた。
『しむら~! うしろ~!』
(笑)
で、コントも終わり、大団円。
CMに入ると、舞台の上の片付け。幕が下りて、セットを隠しただけだったかもしれない。
そしてゲストの歌のコーナー。
・・・・・・だったんだけど、僕らにとっては、初めて見る歌手、初めて聞く曲。
誰だコレ状態。 (○´・Д・) ウァ-
ドサ廻りだったから、知名度の低い歌手だったのかな?
それともただ単に自分たちが知らなかっただけなのか?
いったい誰がゲストで来ていたんだろう? 気になる。
歌が終わると、長さんが舞台に立つ。
『はい、次のコーナー』
音楽が流れて、タキシード姿の二人が。
ヒゲダンスだ! 僕らは色めきたった。
音楽はレコード屋なんかでいつも聴いていたが、見るのは初めて。
カトチャー、しむらー、カトチャー、しむらー、
客席から黄色い声援が飛ぶ。
この回のチャレンジは、遠くからリンゴを投げて剣に突き刺すor吹き矢で並んだ風船を割る。
そんな感じだったと思う。
簡単に成功させ、舞台の袖から出ようとする志村を、加藤茶が呼び止める。
『へーい!』
僕らも叫ぶ。
『ヘーイ!』
それが終わると、またゲストの歌。
はい、これダレ~状態。
そして小粒のコントが終わると、はやくも終焉の時間。
終わっちゃう、終わっちゃう。
もう気分は日曜日のサザエさん状態である。
あれだけ楽しみにしていたドリフが、
夢のような時間が、早くも終わってしまうのだ。
最後、舞台に全員が集合して歌い始めた。
ババンババンバンバン、ハア~ビバビバ。
さて、これで最後だ。僕とK君は顔を見合わせた。
歌が終わったら、サインをもらうのだ。
収録が終わったら、ドリフもお役御免だ。そこがチャンスだ!
『歯~磨けよ~』
加藤茶が手を振った。歌が終わる。
僕とK君は席を離れ、色紙を手に舞台にダッシュした。 ≡≡ヘ(*゚∇゚)ノ
すると、思いがけないことが起きた。
歌の終わりと同時に、緞帳が降りてきたではないか。
サイン、サイン!
僕らが舞台の下までたどり着くのと同時に緞帳が閉まり、
それきりドリフの姿は消えた・・・・・・
僕とK君は、収録の余韻も無いまま、舞台下で呆然としていた。
今にして思えば、浅知恵だった、これはしょうがない。
小学生の頭では楽屋を訪ねるなんて発想も無かったし。
収録の帰り、すでに外は真っ暗だった。
人波に呑まれ、僕とK君はトボトボと帰路についた。
K君の手には、白いままの色紙。
帰り際、僕は真っ白な色紙でも良いから分けてくれ、みたいな感じで手を出した。
K君はわざと無視して、知らんぷりしていた・・・・・・
翌々日の月曜日、小学校の休み時間、H君が話しかけてきた。
『ドリフ見に行ったんだって? 俺を誘ってくれれば良かったのに』
K君がフンス状態で収録の様子を広めたってことは、
容易に想像がついた。
『ごめんごめん、次はきっと誘うから』
『で、どうだった? 志村は楽しかった?』
『そりゃもう・・・・・・』
収録の様子を話すと、H君は目をキラキラさせながら
僕を質問攻めにしてきた。 (*´д`) ハァハァ
友達も集まってきて、いつしか人の輪ができていた。
僕は何故だか、少し誇らしい気持ちになっていた。
しかし残念なことに、いつまで待っても 『 次 』 の機会が来ることは無かった。
隆盛を誇っていた全員集合も、いつしか時代にそぐわなくなり
1985年にその幕を閉じてしまった。
最後だけ、少し苦々しくなってしまった公開収録。
憶えているのは、ホンの一握りの山形市民だけだろうが、
あの日、あの時、夢のような時間は確かに存在したのだ。
西部警察山形ロケと同じように、その瞬間は、山形市にとって、
そして僕にとって黄金のような、宝物のような時間だった。
最後になるが、
8時だョ!全員集合 、そして志村けん、ありがとう、そしてさようなら。
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